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第8回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2025年3月8日)

 

この度は第8回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

 

全応募作品318編の中から最終候補として、「岩手」阿部ユ美、「相沢のおとうさん」安堂玲、「思い出を食す」江ノ橋あかり、「死なないカzOのはなし」かくらこう、「心象動物炉」菊地裕史、「望北炎」去⽯雅弥、「星を浮かべる」志摩佑輔、「あさひ通りだるま食堂」七海文音、「スタンド・バイ・ミー,バイ・ミー」三倉くら、「父からの手紙」三好純太、「未明の雪虫」山碕田鶴、「あきら・めた」四方須衛(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

 

大賞と河北新報社賞は、3月30日(日)の河北新報第2朝刊に、仙台市長賞と東北学院大学賞は『被災学』(3月末発売)に、大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩 vol.135』(4月4日発売号)に掲載されます。

 

 

大賞 

「相沢のおとうさん」 安堂玲(あんどうれい)(54歳・仙台市在住)

 

<略歴>

1970年、宮城県仙台市生まれ。仙台電子専門学校卒。元システムエンジニア。『あわいの花火』で第1回仙台短編文学賞河北新報社賞受賞。

 

<選考理由> 選考委員・岩井俊二

 話し手がいる限り、語れる内容には限界があります。話し手が語る内容が必ずしも正論ではない場合もあり得ます。何かそういうところに挑戦したような作品でした。そんなバカな、という想いと、いや、しかし、という複雑な想いに駆られながら、途轍もなく強烈な、純粋な、ある種の見慣れない絆に気付かされ、泣きそうになりました。作者さんがどこまで意図したかは不明ですが、僕にとってこの感動は未体験だったし新体験でした。

 

<受賞の言葉>

 漠然とですが「普通の人」の強さ・弱さについて書きたいと思っていたところ、ふとしたきっかけで話が浮かび、勢いに任せて書き上げました。書きたいから書き、応募したいから応募した。そんな軽々な気持ちといただいた賞の重みが釣りあわないように感じ、震え上がっています。選考委員および実行委員会の皆様に心より感謝申し上げます。この作品を楽しく読んでくださる方が一人でもいれば嬉しく思います。ありがとうございました。

 

仙台市長賞 

「未明の雪虫」 山碕田鶴(やまさきたづ)(53歳・仙台市在住)

<略歴>

1972年、東京都生まれ。宇都宮大学大学院農学研究科修了。元介護支援専門員。

 

<選考理由> 仙台市長 郡 和子

 関東から仙台に引っ越してきた主人公の「僕」は、転校した中学校になじめず、自宅で毎日を過ごしている。仙台でまとまった雪を初めて体験した僕は、早朝に雪と戯れるうちに、雪を掻いて人の通り道を作るようになり、その中で通りすがりの人と挨拶を交わせるようになるなど、心身ともに少しずつ回復していく。「僕」の抱える生きにくさがすぐに消えるわけではないが、日々の営みの中で、未来への扉が少しずつ開かれていく希望が描かれている。

 

<受賞の言葉>

 生まれも育ちも関東の私が魅せられた西部仙台の雪景色を舞台に、いまだ明けない夜の中にいる中学生が曙光の気配を感じ取るまでを描きました。受賞のお知らせと共に作中の積雪量等について詳細な確認と雪談議があり、東北では皆様が雪に一家言をお持ちなのだと妙に感激した次第です。この度賞を賜り、大変光栄に存じます。作品を発表する機会を下さいました実行委員会ならびにご関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

 

 

河北新報社賞 

「岩手(がんしゅ)」 阿部ユ美(61歳・仙台市在住)

<略歴>

1963年、千葉県生まれ。法政大学法学部法律学科卒。事務職。

 

<選考理由> 河北新報社編集局長 安野賢吾

「岩手」を「がんしゅ」と読ませる。それが大きなごつごつした赤ちゃんの手で「岩手の妊婦だけが生むことがある」という設定に驚く。この「神の手」が母親である「私」の聴力をつかんでいったという展開にも自然と引き込まれる。

聴力を失った母と子が巨大地震と津波に見舞われた際の音のない世界がリアルに表現されている。東日本大震災時、耳に不自由な人はどうしただろうか、想像せずにいられない。

<受賞の言葉>

 受賞の連絡を受けて、日頃旺盛な私の食欲はピタリと止みました。驚きすぎても、嬉しすぎても、人は食べられなくなるのだと、初めて知りました。

 作品は、いつも頭の中にある物語の種が偶然結びついて生まれました。題材に畏れを抱きながらも、思い切って描き切ったものが、このように賞までいただけて、望外の喜びです。着想からここに至る、全ての過程が得難い経験でした。有難うございました。

 

 プレスアート賞 

「父からの手紙」 三好純太(みよしじゅんた)(63歳・東京都在住)

<略歴>

1961年、東京都生まれ。東京都立大学人文学部史学科卒。言語聴覚士として総合病院に勤務後、私設の言語指導室を開設し現在に到る。

<選考理由>プレスアート Kappo前編集長 梅津文代

 幼い頃に別れた父から時折届く手紙を呼び水に、「僕」と家族をうまく営めなかった父との関係が語られます。鉱物や森、雪山、ストーブの炎など、宮沢賢治にも通じるモチーフが多く登場し、北国の手触りを感じる作品でした。新たな手紙の度に家族の過去が少しずつ明らかになり、物語の終盤、手紙の送り主が「内なる父」なのでは、と思わせる表現で世界が反転。寂しさと不安を抱えた主人公の揺らぎが読み手にも伝わる結末でした。

<受賞の言葉>

 かつて宮沢賢治がモーリオと呼んだ街の物語で、センダードと呼んだ街の賞をいただけることをうれしく思います。今回の「父からの手紙」は、以前自作の読解教材として作った「リョウへの手紙」という話のアンサーとして書きました。そのことが、作品にふくらみと陰影をもたらしてくれたのかもしれません。賢治の童話に出てくる山男や林や石も力を貸してくれたように思います。おまえも書いてもいいんだよ。そう声をかけていただいた受賞となりました。

 

 

※以下、学生対象

東北学院大学賞

「こだまのいう通り」 北沢昂久(きたざわたかひさ)(24歳・仙台市在住)

<略歴> 

2000年、新潟県生まれ。東北大学理学部4年。

 

<選考理由> 東北学院大学長 大西晴樹

 空の上に広がると思しき世界で、ジョーンが同僚とともに仙台の街中の木々を飾り付けていく物語。英語の人名と和風月名が織り交ざる独特の世界観のもと、彼らの「仕事」としての地上の四季の移ろいがユーモアと厳しさを伴いながら印象的に描かれていく。やがて、ジョーンが天上から見守っていた地上の小さな子どもが成長し、物語は突如としてその「彼」の視点へと切り替わる。その視点を通じて時間の中で変化していく仙台の街や人々の姿が鮮やかに浮かび上がる手法が秀逸である。視点の転換方法の様々な可能性とともに、二つの世界の関係から生み出されるであろう今後の新たな物語に期待したい。

 

<受賞の言葉>

 この作品は、自分が住まわせていただいた仙台市への感謝を一つの形として何か残したい、という思いが発端となっています。遠く離れた場所でもこの作品を読めばいつでもこの街に帰ってきた気持ちになれる、私自身の心の切符のような作品となりました。そんなわがままな物語を評価していただいた選考委員と関係者の皆様に深く感謝いたします。この作品が賞を通して、ほんのわずかでも街のために貢献できればと願っています。

​​※年齢はすべて2025年3月8日時点のものです。

仙台短編文学賞実行委員会事務局 984-8516 宮城県仙台市若林区土樋103番地 ℡022-266-0911 

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