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第2回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2019年3月9日)

 

この度は第2回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

全応募作品324編の中から、最終候補作として「ビショップの射線」綾部卓悦、「月は、あの頃のままに」荒金新也、「細波」遠藤穂山、「揺らぎ」太田和馬、「クロノグラフ」小林亜衣、「梅と糸瓜と、福寿草」齋藤 隆、西日の里」髙橋 叶、「長次郎の夢」田中エリザバス、「4の島」とざわれんこ、「ホトケマブリ」中野蛙水、「炭焼き笑泣譚」仁科戀、「凪の海」花生典幸、「ナヴァホの青い石」氷月あや、「七夕夜話」山本築、「風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―」やまやしげる(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

大賞と河北新報社賞は、3月15日(金)の河北新報第2朝刊に掲載されます。仙台市長賞と東北学院大学賞、同奨励賞の3編は、『震災学』(3月31日発売予定)に掲載されます。大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩』(4月5日発売号)に掲載されます。そして大賞は『小説すばる』(4月17日発売号)に掲載予定です。

 

 

大賞 「ビショップの射線」 

綾部卓悦(28歳・東京都在住)

 

<略歴>

1991年、群馬県生まれ。高崎経済大学卒。2017年10月から仙台勤務、現在は東京都在住。

<選評> 熊谷達也(作家)

 震災直後ではないものの震災体験がまだ生々しく記憶に残っている時期の、仙台市内のとある市民センター内のチェス倶楽部での一コマが舞台。石巻で被災しつつも直接津波被害には遭っていない女子高生(転校生)が主人公。震災後に転勤で仙台にやって来た青年とのチェスの対戦を通して、震災に対する互いの想いが明らかになっていく。冒頭のチェスの駒が微かに振動する(小さな地震によって)場面から無理なく物語世界に引き込まれる。抑制のある文章が静かな緊張感を全編に漂わせており、短編小説らしい端正な佇まいの作品に仕上がっている。チェスと彼岸花という二つの小道具が無理なく物語に組み込まれているところも巧みだ。なにより、被災地とされる土地においての、異邦人的および境界人的な存在であることによる居心地の悪さをテーマとして選んでいるところが新しい。そんな書き手の思いを小説という表現方法で形にしようとした強い意思が、静かながらも切実に伝わってくる秀作であった。

<受賞の言葉>

電話で受賞の連絡を受けたとき、まず詐欺を疑いました。しかし僕の本名、応募作のタイトル、電話番号のすべてを知っているのは運営事務局の方だけだと思い至り、確信度が七割に。実際に関係者の皆様とお会いして九割に。そして紙面でこの文章を確認し、ようやく十割に至ります。僕にとって今回の受賞は、そのくらい信じがたい出来事です。僕は二〇一六年の四月に『μ’s(みゅーず)』というアイドルグループに夢をもらい、小説を書き始めました。同時期に、六年かけてプロの作家になるという計画も立てました。その前半でひとつ目に見える結果を残せたのは嬉しい誤算です。今回の受賞は僕の人生において大きな意味を持つと思います。きっかけと自信と与えてくれた第二回仙台短編文学賞に、心より感謝申し上げます。

 

 

仙台市長賞 『西日の里』 

髙橋 叶(かの)(42歳・仙台市在住)

 

<略歴>

1976 年、仙台市生まれ。宮城広瀬高校卒。エレクトロニクス商社勤務

 

<選評> 仙台市長 郡 和子

北上川沿いに暮らす老夫婦の日常を、味わいのある会話と、妻の里子(さとこ)を中心に据えた内面描写とを交えて描いた作品。夫婦喧嘩の様子や大酒飲みの富助の描写も、ユーモアと自然な方言を交え、生き生きとしたものになっている。前半の滑稽さがあればこそ、後半の老夫婦の交感も胸に迫ってくる。直接震災は描かれないが、震災前の北上川流域にすむ人々の暮らしぶりにまで思いを馳せることのできる作品である。

 

<受賞の言葉>

もうそこにはない家、もうそこにはない暮らし。だけどそこにも人が住んでいて、人の思いがあって、暮らしがあったのだよ。という気持ちだけで書いた作品です。授賞のご連絡を頂いた時、自分の書いた作品が賞を頂いたということを私の脳が理解するまでにだいぶ時間が掛かりました。必ず完成させて応募し、参加するという事が目標でしたので、受賞は全く考えておらず、驚きの次に恐怖がやって来ました。拙い文章ではありますが、この作品を選んでいただき、このような素晴らしい賞を授けてくださったことを大変うれしく思います。選考委員の皆様、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

 

 

河北新報社賞 「梅と糸瓜(へちま)と、福寿草」

齋藤 隆(64歳・山形市在住)

 

<略歴>

1955 年、山形市生まれ。山形大学卒。広告代理店を昨年定年

 

<選評> 河北新報社編集局長 今野俊宏

社会の片隅でひっそりと暮らす3人の登場人物が、ある意味で面倒な、でも温かい絆を結んでいた。生まれも年齢も来し方もまるで違う男女。古びたアパートで生きる姿や会話が時にユーモラスだ。主人公はやや弱いが、老いた女性と中年男性のキャラクターが際立つ。震災による悲劇の絡みも現実味がある。悲しい結末ではあるが、自分もちょっぴり頑張ってみようかな、と思わせる読後感が心地よい。

 

<受賞の言葉>

平成の終わりにこんな大きな賞を頂き、戸惑い以上の喜びを感じています。小説は創作ですが、〝梅さん〟にはモデルがいます。加藤民子さん。ご高齢ながら山形童話の会で創作を続け、病床でもパソコンに向かっていました。残念ながら二年前に旅立たれました。

「書く楽しさが生き甲斐です」。生前の加藤さんの言葉に励まされて書いていたら、こんな大人の童話になりました。少しお酒の力も借りましたが、今度は祝杯になりそうです。遅ればせながら、加藤さん、有難う。そして当賞の関係者の皆様、本当に有難うございました。定年後の余暇が少しだけ楽しくなりそうです。

 

プレスアート賞「風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―」

やまやしげる(70歳・大阪府在住)

 

<略歴>

1948年、白石市生まれ。立命館大学卒。大阪教育大学大学院修了。神戸学院大学非常勤講師

 

<選評> プレスアート Kappo編集長 梅津文代

2011年4月、一人の男性が帰郷してくる。四人兄弟の長兄を軸に家族の思い出が綴られるが、実家にはもう誰も住んでいない。生々しい爪痕の残る仙台空港、地元の人々との会話にも震災は濃い影を落としている。その夜の不思議な出来事は夢か、魂の名残か。

震災からまもない時期の風景や心の揺れを淡々とリアルに描写。温かく切ない一夜と抑制された筆致が、深い喪失感を浮かび上がらせている。

 

<受賞の言葉>

もう会えないけど、「会いたい、会いたい」と思うことはありませんか? 誰も居ない実家に一人で帰ると、喪失感に出会うことがあります。一人で蒲団に入ると、夢でもいいから出てきて欲しい、などと思うことがあります。東北の多くの人たちが震災で家族を失い、家を失いました。あまりに理不尽で、辛いことで、私にはどうして良いか分かりません。私は、震災で家族を失った訳ではないのですが、この喪失感はどこか根底で通じるものがあると思っています。そして、そんな想いは小説でしか伝えることが出来ないと想い、一つ一つの言葉や描写に、私の祈りを込めてこの小説を書きました。この小説に賞をいただき、心から感謝しています。ありがとうございました。

 

 

(全応募作の中から、中学生・高校生・専門学校生・大学生・大学院生を対象に選考)

東北学院大学賞 「長次郎の夢」 

田中エリザバス(19歳・仙台市在住)

 

<略歴> 

2000年生まれ。尚絅学院大学1年生

<選評> 東北学院大学学長 松本宣郎

学校が嫌いな主人公が大津波で亡くなったのであろう祖父と愛犬との思い出を通して、前を向いて生きていこうとする物語。過去と現実という二つの時間軸が存在する中で、物語の構成がしっかりしており、テンポよく読み進めさせる技術は秀逸である。主人公の小学生のレベルの気持ちの表現などに推敲すべき点もあると思われるが、短編小説としては、出色の出来栄えと言ってよい作品である。

 

<受賞の言葉>

受賞の報を頂いたとき、私は居間の鏡に小躍りする奇怪な青年の姿を見ました。剃り残した青ひげが印象的な青年。もちろん私です。ひとしきり喜びを噛みしめた私の次の行動は、洗面所にヒゲソリを探しに行くことでした。兎にも角にも、このたびは素敵な賞を授けていただき本当にありがとうございます。諸手を上げて感涙に咽ぶこと天にも昇るが如しです。実行委員会および関係者の方々に心より感謝いたします。誠にありがとうございます。

 

東北学院大学賞(奨励賞) 

「落日と鬼灯(ほおずき)」 水無月恒(18歳・登米市在住)

 

<略歴> 

2000年生まれ。登米高校を先日卒業

 

<選評> 東北学院大学学長 松本宣郎

幼いころの自分の行動が原因で祖父を失ってしまったと思いこんでいる主人公が、17年後にあらためて実家のある夏祭りにもどる。罪悪感にさいなまれる現実世界と幼いときの世界を織り交ぜた構成となっている物語。主人公の罪の意識を知らない祖母とのやりとりが印象的。祖父が亡くなった原因と主人公が抱く罪悪感の関係性をもっと整理してくれるとさらに良くなると思われる。これからの成長を大いに期待したい。

 

<受賞の言葉>

この度は、輝かしい賞を頂戴し大変嬉しく思います。高校の図書室で偶然同賞のポスターを見かけた際、夜闇に映える大輪の花が脳裏に浮かびました。たった一瞬の情景を、こうして一つの物語する作業は、古いアルバムを捲るような懐かしさと、ほんの少しの寂しさに酷く似ています。進学に伴い、四月より地元を離れますが、最後に故郷への感謝を形にすることが出来ました。未熟で拙い私の物語を評価してくださった選考委員の皆様、実行委員会の皆様に心より感謝致します。本当に、ありがとうございました。

第2回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2019年3月9日)

 

この度は第2回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

全応募作品324編の中から、最終候補作として「ビショップの射線」綾部卓悦、「月は、あの頃のままに」荒金新也、「細波」遠藤穂山、「揺らぎ」太田数馬、「クロノグラフ」小林亜衣、「梅と糸瓜と、福寿草」齋藤 隆、西日の里」髙橋 叶、「長次郎の夢」田中エリザバス、「4の島」とざわれんこ、「ホトケマブリ」中野蛙水、「炭焼き笑泣譚」仁科戀、「凪の海」花生典幸、「ナヴァホの青い石」氷月あや、「七夕夜話」山本築、「風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―」やまやしげる(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

大賞と河北新報社賞は、3月15日(金)の河北新報第2朝刊に掲載されます。仙台市長賞と東北学院大学賞、同奨励賞の3編は、『震災学』(3月31日発売予定)に掲載されます。大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩』(4月5日発売号)に掲載されます。そして大賞は『小説すばる』(4月17日発売号)に掲載予定です。

 

 

大賞 「ビショップの射線」 

綾部卓悦(28歳・東京都在住)

 

<略歴>

1991年、群馬県生まれ。高崎経済大学卒。2017年10月から仙台勤務、現在は東京都在住。

<選評> 熊谷達也(作家)

 震災直後ではないものの震災体験がまだ生々しく記憶に残っている時期の、仙台市内のとある市民センター内のチェス倶楽部での一コマが舞台。石巻で被災しつつも直接津波被害には遭っていない女子高生(転校生)が主人公。震災後に転勤で仙台にやって来た青年とのチェスの対戦を通して、震災に対する互いの想いが明らかになっていく。冒頭のチェスの駒が微かに振動する(小さな地震によって)場面から無理なく物語世界に引き込まれる。抑制のある文章が静かな緊張感を全編に漂わせており、短編小説らしい端正な佇まいの作品に仕上がっている。チェスと彼岸花という二つの小道具が無理なく物語に組み込まれているところも巧みだ。なにより、被災地とされる土地においての、異邦人的および境界人的な存在であることによる居心地の悪さをテーマとして選んでいるところが新しい。そんな書き手の思いを小説という表現方法で形にしようとした強い意思が、静かながらも切実に伝わってくる秀作であった。

<受賞の言葉>

電話で受賞の連絡を受けたとき、まず詐欺を疑いました。しかし僕の本名、応募作のタイトル、電話番号のすべてを知っているのは運営事務局の方だけだと思い至り、確信度が七割に。実際に関係者の皆様とお会いして九割に。そして紙面でこの文章を確認し、ようやく十割に至ります。僕にとって今回の受賞は、そのくらい信じがたい出来事です。僕は二〇一六年の四月に『μ’s(みゅーず)』というアイドルグループに夢をもらい、小説を書き始めました。同時期に、六年かけてプロの作家になるという計画も立てました。その前半でひとつ目に見える結果を残せたのは嬉しい誤算です。今回の受賞は僕の人生において大きな意味を持つと思います。きっかけと自信と与えてくれた第二回仙台短編文学賞に、心より感謝申し上げます。

 

 

仙台市長賞 『西日の里』 

髙橋 叶(かの)(42歳・仙台市在住)

 

<略歴>

1976 年、仙台市生まれ。宮城広瀬高校卒。エレクトロニクス商社勤務

 

<選評> 仙台市長 郡 和子

北上川沿いに暮らす老夫婦の日常を、味わいのある会話と、妻の里子(さとこ)を中心に据えた内面描写とを交えて描いた作品。夫婦喧嘩の様子や大酒飲みの富助の描写も、ユーモアと自然な方言を交え、生き生きとしたものになっている。前半の滑稽さがあればこそ、後半の老夫婦の交感も胸に迫ってくる。直接震災は描かれないが、震災前の北上川流域にすむ人々の暮らしぶりにまで思いを馳せることのできる作品である。

 

<受賞の言葉>

もうそこにはない家、もうそこにはない暮らし。だけどそこにも人が住んでいて、人の思いがあって、暮らしがあったのだよ。という気持ちだけで書いた作品です。授賞のご連絡を頂いた時、自分の書いた作品が賞を頂いたということを私の脳が理解するまでにだいぶ時間が掛かりました。必ず完成させて応募し、参加するという事が目標でしたので、受賞は全く考えておらず、驚きの次に恐怖がやって来ました。拙い文章ではありますが、この作品を選んでいただき、このような素晴らしい賞を授けてくださったことを大変うれしく思います。選考委員の皆様、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

 

 

河北新報社賞 「梅と糸瓜(へちま)と、福寿草」

齋藤 隆(64歳・山形市在住)

 

<略歴>

1955 年、山形市生まれ。山形大学卒。広告代理店を昨年定年

 

<選評> 河北新報社編集局長 今野俊宏

社会の片隅でひっそりと暮らす3人の登場人物が、ある意味で面倒な、でも温かい絆を結んでいた。生まれも年齢も来し方もまるで違う男女。古びたアパートで生きる姿や会話が時にユーモラスだ。主人公はやや弱いが、老いた女性と中年男性のキャラクターが際立つ。震災による悲劇の絡みも現実味がある。悲しい結末ではあるが、自分もちょっぴり頑張ってみようかな、と思わせる読後感が心地よい。

 

<受賞の言葉>

平成の終わりにこんな大きな賞を頂き、戸惑い以上の喜びを感じています。小説は創作ですが、〝梅さん〟にはモデルがいます。加藤民子さん。ご高齢ながら山形童話の会で創作を続け、病床でもパソコンに向かっていました。残念ながら二年前に旅立たれました。

「書く楽しさが生き甲斐です」。生前の加藤さんの言葉に励まされて書いていたら、こんな大人の童話になりました。少しお酒の力も借りましたが、今度は祝杯になりそうです。遅ればせながら、加藤さん、有難う。そして当賞の関係者の皆様、本当に有難うございました。定年後の余暇が少しだけ楽しくなりそうです。

 

プレスアート賞「風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―」

やまやしげる(70歳・大阪府在住)

 

<略歴>

1948年、白石市生まれ。立命館大学卒。大阪教育大学大学院修了。神戸学院大学非常勤講師

 

<選評> プレスアート Kappo編集長 梅津文代

2011年4月、一人の男性が帰郷してくる。四人兄弟の長兄を軸に家族の思い出が綴られるが、実家にはもう誰も住んでいない。生々しい爪痕の残る仙台空港、地元の人々との会話にも震災は濃い影を落としている。その夜の不思議な出来事は夢か、魂の名残か。

震災からまもない時期の風景や心の揺れを淡々とリアルに描写。温かく切ない一夜と抑制された筆致が、深い喪失感を浮かび上がらせている。

 

<受賞の言葉>

もう会えないけど、「会いたい、会いたい」と思うことはありませんか? 誰も居ない実家に一人で帰ると、喪失感に出会うことがあります。一人で蒲団に入ると、夢でもいいから出てきて欲しい、などと思うことがあります。東北の多くの人たちが震災で家族を失い、家を失いました。あまりに理不尽で、辛いことで、私にはどうして良いか分かりません。私は、震災で家族を失った訳ではないのですが、この喪失感はどこか根底で通じるものがあると思っています。そして、そんな想いは小説でしか伝えることが出来ないと想い、一つ一つの言葉や描写に、私の祈りを込めてこの小説を書きました。この小説に賞をいただき、心から感謝しています。ありがとうございました。

 

 

(全応募作の中から、中学生・高校生・専門学校生・大学生・大学院生を対象に選考)

東北学院大学賞 「長次郎の夢」 

田中エリザバス(19歳・仙台市在住)

 

<略歴> 

2000年生まれ。尚絅学院大学1年生

<選評> 東北学院大学学長 松本宣郎

学校が嫌いな主人公が大津波で亡くなったのであろう祖父と愛犬との思い出を通して、前を向いて生きていこうとする物語。過去と現実という二つの時間軸が存在する中で、物語の構成がしっかりしており、テンポよく読み進めさせる技術は秀逸である。主人公の小学生のレベルの気持ちの表現などに推敲すべき点もあると思われるが、短編小説としては、出色の出来栄えと言ってよい作品である。

 

<受賞の言葉>

受賞の報を頂いたとき、私は居間の鏡に小躍りする奇怪な青年の姿を見ました。剃り残した青ひげが印象的な青年。もちろん私です。ひとしきり喜びを噛みしめた私の次の行動は、洗面所にヒゲソリを探しに行くことでした。兎にも角にも、このたびは素敵な賞を授けていただき本当にありがとうございます。諸手を上げて感涙に咽ぶこと天にも昇るが如しです。実行委員会および関係者の方々に心より感謝いたします。誠にありがとうございます。

 

東北学院大学賞(奨励賞) 

「落日と鬼灯(ほおずき)」 水無月恒(18歳・登米市在住)

 

<略歴> 

2000年生まれ。登米高校を先日卒業

 

<選評> 東北学院大学学長 松本宣郎

幼いころの自分の行動が原因で祖父を失ってしまったと思いこんでいる主人公が、17年後にあらためて実家のある夏祭りにもどる。罪悪感にさいなまれる現実世界と幼いときの世界を織り交ぜた構成となっている物語。主人公の罪の意識を知らない祖母とのやりとりが印象的。祖父が亡くなった原因と主人公が抱く罪悪感の関係性をもっと整理してくれるとさらに良くなると思われる。これからの成長を大いに期待したい。

 

<受賞の言葉>

この度は、輝かしい賞を頂戴し大変嬉しく思います。高校の図書室で偶然同賞のポスターを見かけた際、夜闇に映える大輪の花が脳裏に浮かびました。たった一瞬の情景を、こうして一つの物語する作業は、古いアルバムを捲るような懐かしさと、ほんの少しの寂しさに酷く似ています。進学に伴い、四月より地元を離れますが、最後に故郷への感謝を形にすることが出来ました。未熟で拙い私の物語を評価してくださった選考委員の皆様、実行委員会の皆様に心より感謝致します。本当に、ありがとうございました。

第2回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2019年3月9日)

 

この度は第2回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

全応募作品324編の中から、最終候補作として「ビショップの射線」綾部卓悦、「月は、あの頃のままに」荒金新也、「細波」遠藤穂山、「揺らぎ」太田数馬、「クロノグラフ」小林亜衣、「梅と糸瓜と、福寿草」齋藤 隆、西日の里」髙橋 叶、「長次郎の夢」田中エリザバス、「4の島」とざわれんこ、「ホトケマブリ」中野蛙水、「炭焼き笑泣譚」仁科戀、「凪の海」花生典幸、「ナヴァホの青い石」氷月あや、「七夕夜話」山本築、「風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―」やまやしげる(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

大賞と河北新報社賞は、3月15日(金)の河北新報第2朝刊に掲載されます。仙台市長賞と東北学院大学賞、同奨励賞の3編は、『震災学』(3月31日発売予定)に掲載されます。大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩』(4月5日発売号)に掲載されます。そして大賞は『小説すばる』(4月17日発売号)に掲載予定です。

 

 

大賞 「ビショップの射線」 

綾部卓悦(28歳・東京都在住)

 

<略歴>

1991年、群馬県生まれ。高崎経済大学卒。2017年10月から仙台勤務、現在は東京都在住。

<選評> 熊谷達也(作家)

 震災直後ではないものの震災体験がまだ生々しく記憶に残っている時期の、仙台市内のとある市民センター内のチェス倶楽部での一コマが舞台。石巻で被災しつつも直接津波被害には遭っていない女子高生(転校生)が主人公。震災後に転勤で仙台にやって来た青年とのチェスの対戦を通して、震災に対する互いの想いが明らかになっていく。冒頭のチェスの駒が微かに振動する(小さな地震によって)場面から無理なく物語世界に引き込まれる。抑制のある文章が静かな緊張感を全編に漂わせており、短編小説らしい端正な佇まいの作品に仕上がっている。チェスと彼岸花という二つの小道具が無理なく物語に組み込まれているところも巧みだ。なにより、被災地とされる土地においての、異邦人的および境界人的な存在であることによる居心地の悪さをテーマとして選んでいるところが新しい。そんな書き手の思いを小説という表現方法で形にしようとした強い意思が、静かながらも切実に伝わってくる秀作であった。

<受賞の言葉>

電話で受賞の連絡を受けたとき、まず詐欺を疑いました。しかし僕の本名、応募作のタイトル、電話番号のすべてを知っているのは運営事務局の方だけだと思い至り、確信度が七割に。実際に関係者の皆様とお会いして九割に。そして紙面でこの文章を確認し、ようやく十割に至ります。僕にとって今回の受賞は、そのくらい信じがたい出来事です。僕は二〇一六年の四月に『μ’s(みゅーず)』というアイドルグループに夢をもらい、小説を書き始めました。同時期に、六年かけてプロの作家になるという計画も立てました。その前半でひとつ目に見える結果を残せたのは嬉しい誤算です。今回の受賞は僕の人生において大きな意味を持つと思います。きっかけと自信と与えてくれた第二回仙台短編文学賞に、心より感謝申し上げます。

 

 

仙台市長賞 『西日の里』 

髙橋 叶(かの)(42歳・仙台市在住)

 

<略歴>

1976 年、仙台市生まれ。宮城広瀬高校卒。エレクトロニクス商社勤務

 

<選評> 仙台市長 郡 和子

北上川沿いに暮らす老夫婦の日常を、味わいのある会話と、妻の里子(さとこ)を中心に据えた内面描写とを交えて描いた作品。夫婦喧嘩の様子や大酒飲みの富助の描写も、ユーモアと自然な方言を交え、生き生きとしたものになっている。前半の滑稽さがあればこそ、後半の老夫婦の交感も胸に迫ってくる。直接震災は描かれないが、震災前の北上川流域にすむ人々の暮らしぶりにまで思いを馳せることのできる作品である。

 

<受賞の言葉>

もうそこにはない家、もうそこにはない暮らし。だけどそこにも人が住んでいて、人の思いがあって、暮らしがあったのだよ。という気持ちだけで書いた作品です。授賞のご連絡を頂いた時、自分の書いた作品が賞を頂いたということを私の脳が理解するまでにだいぶ時間が掛かりました。必ず完成させて応募し、参加するという事が目標でしたので、受賞は全く考えておらず、驚きの次に恐怖がやって来ました。拙い文章ではありますが、この作品を選んでいただき、このような素晴らしい賞を授けてくださったことを大変うれしく思います。選考委員の皆様、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

 

 

河北新報社賞 「梅と糸瓜(へちま)と、福寿草」

齋藤 隆(64歳・山形市在住)

 

<略歴>

1955 年、山形市生まれ。山形大学卒。広告代理店を昨年定年

 

<選評> 河北新報社編集局長 今野俊宏

社会の片隅でひっそりと暮らす3人の登場人物が、ある意味で面倒な、でも温かい絆を結んでいた。生まれも年齢も来し方もまるで違う男女。古びたアパートで生きる姿や会話が時にユーモラスだ。主人公はやや弱いが、老いた女性と中年男性のキャラクターが際立つ。震災による悲劇の絡みも現実味がある。悲しい結末ではあるが、自分もちょっぴり頑張ってみようかな、と思わせる読後感が心地よい。

 

<受賞の言葉>

平成の終わりにこんな大きな賞を頂き、戸惑い以上の喜びを感じています。小説は創作ですが、〝梅さん〟にはモデルがいます。加藤民子さん。ご高齢ながら山形童話の会で創作を続け、病床でもパソコンに向かっていました。残念ながら二年前に旅立たれました。

「書く楽しさが生き甲斐です」。生前の加藤さんの言葉に励まされて書いていたら、こんな大人の童話になりました。少しお酒の力も借りましたが、今度は祝杯になりそうです。遅ればせながら、加藤さん、有難う。そして当賞の関係者の皆様、本当に有難うございました。定年後の余暇が少しだけ楽しくなりそうです。

 

プレスアート賞「風音(kazaoto)―ピアノ五重奏曲第二番 イ長調―」

やまやしげる(70歳・大阪府在住)

 

<略歴>

1948年、白石市生まれ。立命館大学卒。大阪教育大学大学院修了。神戸学院大学非常勤講師

 

<選評> プレスアート Kappo編集長 梅津文代

2011年4月、一人の男性が帰郷してくる。四人兄弟の長兄を軸に家族の思い出が綴られるが、実家にはもう誰も住んでいない。生々しい爪痕の残る仙台空港、地元の人々との会話にも震災は濃い影を落としている。その夜の不思議な出来事は夢か、魂の名残か。

震災からまもない時期の風景や心の揺れを淡々とリアルに描写。温かく切ない一夜と抑制された筆致が、深い喪失感を浮かび上がらせている。

 

<受賞の言葉>

もう会えないけど、「会いたい、会いたい」と思うことはありませんか? 誰も居ない実家に一人で帰ると、喪失感に出会うことがあります。一人で蒲団に入ると、夢でもいいから出てきて欲しい、などと思うことがあります。東北の多くの人たちが震災で家族を失い、家を失いました。あまりに理不尽で、辛いことで、私にはどうして良いか分かりません。私は、震災で家族を失った訳ではないのですが、この喪失感はどこか根底で通じるものがあると思っています。そして、そんな想いは小説でしか伝えることが出来ないと想い、一つ一つの言葉や描写に、私の祈りを込めてこの小説を書きました。この小説に賞をいただき、心から感謝しています。ありがとうございました。

 

 

(全応募作の中から、中学生・高校生・専門学校生・大学生・大学院生を対象に選考)

東北学院大学賞 「長次郎の夢」 

田中エリザバス(19歳・仙台市在住)

 

<略歴> 

2000年生まれ。尚絅学院大学1年生

<選評> 東北学院大学学長 松本宣郎

学校が嫌いな主人公が大津波で亡くなったのであろう祖父と愛犬との思い出を通して、前を向いて生きていこうとする物語。過去と現実という二つの時間軸が存在する中で、物語の構成がしっかりしており、テンポよく読み進めさせる技術は秀逸である。主人公の小学生のレベルの気持ちの表現などに推敲すべき点もあると思われるが、短編小説としては、出色の出来栄えと言ってよい作品である。

 

<受賞の言葉>

受賞の報を頂いたとき、私は居間の鏡に小躍りする奇怪な青年の姿を見ました。剃り残した青ひげが印象的な青年。もちろん私です。ひとしきり喜びを噛みしめた私の次の行動は、洗面所にヒゲソリを探しに行くことでした。兎にも角にも、このたびは素敵な賞を授けていただき本当にありがとうございます。諸手を上げて感涙に咽ぶこと天にも昇るが如しです。実行委員会および関係者の方々に心より感謝いたします。誠にありがとうございます。

 

東北学院大学賞(奨励賞) 

「落日と鬼灯(ほおずき)」 水無月恒(18歳・登米市在住)

 

<略歴> 

2000年生まれ。登米高校を先日卒業

 

<選評> 東北学院大学学長 松本宣郎

幼いころの自分の行動が原因で祖父を失ってしまったと思いこんでいる主人公が、17年後にあらためて実家のある夏祭りにもどる。罪悪感にさいなまれる現実世界と幼いときの世界を織り交ぜた構成となっている物語。主人公の罪の意識を知らない祖母とのやりとりが印象的。祖父が亡くなった原因と主人公が抱く罪悪感の関係性をもっと整理してくれるとさらに良くなると思われる。これからの成長を大いに期待したい。

 

<受賞の言葉>

この度は、輝かしい賞を頂戴し大変嬉しく思います。高校の図書室で偶然同賞のポスターを見かけた際、夜闇に映える大輪の花が脳裏に浮かびました。たった一瞬の情景を、こうして一つの物語する作業は、古いアルバムを捲るような懐かしさと、ほんの少しの寂しさに酷く似ています。進学に伴い、四月より地元を離れますが、最後に故郷への感謝を形にすることが出来ました。未熟で拙い私の物語を評価してくださった選考委員の皆様、実行委員会の皆様に心より感謝致します。本当に、ありがとうございました。

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