【仙台短編文学賞設立主旨】
歴史を繙けば、江戸時代の仙台には数多くの書肆があり、盛んに出版活動が行われていたという記録が残っています。文化・文政期の文人・只野真葛は仙台で旺盛な執筆活動を行い、数多くの本を著しました。東北学院大学では島崎藤村が教鞭をとり、魯迅は東北大学の留学中に文学者への道を志したと言われています。
戦後、河北新報社は総合文芸誌『東北文学』を創刊し、「新しい文学を東北から発信していく」という強い意志のもと、五年にわたり発行を続けました。太宰治や武者小路実篤らが寄稿した『東北文学』は、中央文壇とは異なる形でここ仙台の地で文芸復興を目指したのです。
いま仙台は、たくさんの文学者・作家が住まう街になりました。この街で学生時代を過ごした作家も含めるとその数はもっと多くなります。歴史を知れば知るほど「仙台は文学の街だったのではないか」と思うようになりました。
そんな時、震災が街を襲いました。衝撃と混乱のなか、私たちを支えたのは言葉でした。災後の日々の苦悩や「これからどう生きるべきか」という問いの答えは、先人たちが紡いだ古典や人文書のなかに存在しました。そして物語や文学が私たちの心を癒しました。改めて本が持つ力を感じる契機になったのです。
印象に残っている言葉があります。「震災のときの子どもたちが成長して文学的な言葉を持ったときに、はじめて被災地から文学が立ち上がってくるのではないか」。今回審査委員をお願いした佐伯氏の言葉です。仙台の出版人としてその一翼を担うべきではないか。そんな思いが一同に芽生えました。
震災から六年が過ぎ、風化と忘却が進んでいます。いま一度言葉の力を信じたい。過酷な体験を新しい言葉で表現するための枠組みを創りたい。そう考えています。震災を経験した仙台から、次の世代の文学が産まれることを願って、私たちは「仙台短編文学賞」を創設します。(2017年7月20日)