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第4回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2021年3月6日)

 

この度は第4回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

 

全応募作品374編の中から、最終候補として「リベンジ」伊藤左知子、「母の能面」粥居喜蔵、「月にかける」東風谷香歩、「小さな庭のおうち」ゴトウサンシロウ、「ジョバンニの切符」水津藤乃、「掌」中原新一、「芳文の桜」永田祐子、「一般意志SENDAI」西田充晴、「骨」時田日向、「蛍」本郷久美、「海、とても」森川 樹(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

 

大賞と河北新報社賞は、3月18日(木)の河北新報第2朝刊に、仙台市長賞と東北学院大学賞、同奨励賞は、『震災学』(3月31日発売)に、大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩 vol.111』(4月5日発売号)に掲載されます。

 

 

大賞 「海、とても」 

森川樹(もりかわいつき・46歳・兵庫県在住)

 

<略歴>

1974年、宮城県女川町生まれ。尚絅女学院短期大学卒。被災後、女川町役場臨時職員などを経て、現在兵庫県在住

 

<あらすじ>

 東日本大震災がおきた時、伊藤恵美は高校生だった。震災で父親が経営する活魚運送の会社は廃業し、母親は10年経った今も行方不明のままだ。震災当時の気持ちに整理をつけられない恵美は町から離れられず、観光案内所で働いている。ある日、観光客の前で語り部の木村から恵美は被災体験を話すよう促された。恵美はそれを拒絶した。その晩、父親から活魚運送を再開すると聞かされる。翌日、託児で預かった男の子の言葉がきっかけで、恵美はこの町の住人や海がかけがえのないものだと気がつく。

 

<選考理由> 第4回選考委員 いとうせいこう

 被災した小さな町の時間を、傷と成長含め丁寧に描いている。ここには「被災」と「それを語り継ぐ困難」に関して普遍的なことが書かれており、しかも具体的なシーンによって新しい「あるべき未来」が提示されるのも小説らしい。

 

<受賞の言葉>

 

 震災を乗り越えるというのは、どういうことだろうか。失った大きさ、悲しみの形、傷の深さもそれぞれに違う。そして、私の「あの日」も未だ消化されないままだ。きっと、納得がいく答えはどこにもない。それでも、喪失感と向き合う人たちを伝えられたらと書き上げた。この作品が誰かの心に響いてくれたら、それが、一番、嬉しい。

 この度は、素晴らしい賞を頂き、本当にありがとうございます。恐縮しながらも喜びを噛みしめています。選考委員のいとうせいこうさま、実行委員会および関係者の皆さまに心より感謝いたします。

仙台市長賞 「蛍」

本郷久美(ほんごうくみ・62歳・埼玉県在住)

  

<略歴>

1958年、宮城県石巻市生まれ。石巻女子高等学校卒。デザイン会社勤務を経て、現在はフリーランスのグラフィックデザイナー

 

<選考理由> 仙台市長 郡 和子

 母に対する屈折した感情と、歳の離れた二人の姉からの疎外感を抱えて成長した女性が、父母の死や東日本大震災といった出来事を経てわだかまりを溶かしていく、その姿を描く。

 回想の形で、石巻の陸前山下駅周辺の風景や子ども時代の数々の記憶が、方言をまじえた丁寧な文章で綴られている。なかでも、表題にもとられた「蛍」にまつわるエピソードは、視覚的に鮮やかに描かれていて印象深い。この記憶を通じて主人公が家族に対する心のもつれを解いていく結末は、読む者に静かな安堵感を与える。

 

<受賞のことば>

 

 生まれ育った石巻を離れて44年が過ぎました。懐かしい石巻の風景は、幼いときのままで私の心の中にあります。いつからか、私の「原風景」を文字にして残したい想いが膨らんで、書かずにいられなくなりました。震災を意識せずに暮らす都会の人間にはなりきれず、さりとて石巻の人間でもない中途半端な存在である私の、やるせない想いもお話の中に込めました。故郷の文学賞で賞をいただけたことを、この上ない光栄に思います。

 

 

 

河北新報社賞 「骨」

時田日向(ときたひゅうが・22歳・神奈川県在住)

 

<略歴>

1998年、宮城県石巻市生まれ。石巻商業卒、専修大学商学部4年

  

<選考理由> 河北新報社取締役編集局長 今野俊宏

 

 震災で母と津波に遭遇し、つないでいた手を離してしまった主人公がうつうつとした日々を送る。ささやかな慰みをくれるのは火葬場で盗んだ他人の指の骨を入れた小瓶。そんな負い目を抱えながら、自死した中学時代の同級生の幻影と語り合う。死者と「生き残ってしまった」者、骨の関わりが興味深い。骨を海に返し、新しい生活に踏みだそうという心境に至るには長い時間軸が必要だった。震災10年だからこそ編み出された作品だろう。

 

<受賞のことば>

 

 今回、河北新報社賞を頂き大変光栄に思います。震災当時、十二歳だった私は石巻で被災しました。中学、高校まで石巻で暮らしました。

 神奈川に移り住み、地元にいた時とは震災に対する価値観が変化しました。そんな中、石巻で暮らす人間が震災とどう向き合い、十年を過ごしてきたのか作品にしようと思いました。河北新報に小説が掲載されるということなので、地元の人に読んでもらえるのが嬉しいです。

 

 

プレスアート賞 「月にかける」

東風谷香歩(こちやかほ33歳・福島県在住)

 

<略歴>

1988年、福島県生まれ。法政大学通信教育学部文学部日本文学学科卒業。会社員

  

<選考理由> プレスアート Kappo前編集長 梅津文代

 

 自分の絵に自信を失くした美大生が、ある女性から娘の花嫁姿を描いてほしいと依頼される。高校卒業の春に震災で亡くなった彼女は、生きていれば結婚して子どもがいても不思議ではない年齢だった。それぞれの被災体験と10年の歳月がもたらした心の変容をやさしく温かい筆致で捉えた。コロナ禍の現在を含めて素直に綴られており、胸に沁みる。ムカサリ絵馬をはじめ、随所に散りばめられたモチーフがタイトルに集約されていく構成も巧み。

 

<受賞のことば>

 

 十年という確かな年月の前に付くのが「もう」なのか、「まだ」なのか。あの日、かけがえのない存在を失くされたお一人、お一人の哀しみの様相と同じように、様々な感じ方、捉え方があるかと思います。

 しかしどれほど年月が過ぎようと、大切な人との思い出は決して風化しないと信じ、この小説を紡ぎました。最後になりましたが、実行委員会ならびに関係者の方々に心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

※以下、学生対象

東北学院大学賞 「雑踏を奏でる」 

茂木大地(もぎだいち・22歳・仙台市在住)

 

<略歴> 

1999年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学教養学部4年

  

<選考理由> 東北学院大学長 大西晴樹

 

 小学校の卒業式以来、会っていなかった同級生に同じ大学で再会し、同じ中学校に進学しなかった理由や震災について語り合う様子を描いた物語。震災を経験した若者たちが、震災があったことを受け止め、忘れないという強い想いを持ちながら前向きに生きていこうという描写が印象的である。

 文体等が練られていない点も見られるが、この世代の若者の心情は良く描けている。これからのさらなる成長を楽しみにさせる作品である。

 

<受賞の言葉>

 

 小説の中で震災という出来事を言葉に紡ぐのは、書いて受賞が決まった今でも時期尚早だったと感じています。最初は震災と全く関係ない作品にしようと思っていたのですが、仙台を舞台にする上で宿命なのか、震災から離れることができませんでした。

 この度、素晴らしい賞を頂き、さらに同賞を同大学の学生で初めて受賞でき、大変嬉しく思っています。選考委員はじめ、関係者の皆様、関わってくれたすべての人に感謝申し上げます。

東北学院大学賞奨励賞 「正解」 

川上新(かわかみあらた・17歳・仙台市在住)

 

<略歴> 

2003年、宮城県仙台市生まれ。山形県立霞城学園高等学校3年

 

<選考理由> 東北学院大学長 大西晴樹

 

 不動産屋に勤める若者と不動産を求めたシングルマザーの付き合いを描いた物語。就職先の業種・業態と大学での専攻分野の不一致や就職活動での不完全燃焼などを感じる若者が、シングルマザーの強さに強く惹かれていき、若者自身も強さを身につけていく様子が印象的である。

 ドラマティックな物語内容は面白く、文章もしっかりしているが、構成等に緻密さが加わるとさらに良くなる印象である。これからの成長を大いに期待したい。

  

<受賞の言葉>

 

 この度は拙作が賞を頂けて大変嬉しく思っております。受賞作は自らの小説であるにも関わらず、この手を離れどこか遠くへ行ってしまった気がしています。きっと、帰っていったのでしょう。執筆は孤独ですが、小説は一人では書けません。この街やその住人、彼らが育んだ空気を吸い上げて小説という一つの形になりました。進学に伴いこの故郷を離れますが、僅かながら恩返しができました。選考委員ならびに実行委員会の皆様に心より感謝申し上げます。

​※年齢はすべて2021年3月6日時点のものです。

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