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第3回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2020年3月7日)

 

この度は第3回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

 

全応募作品477編の中から、最終候補として「陸前落合駅、午前六時十二分発」蒼井智、「UW1を待ちながら」礒﨑祥吾、「真珠葬」火狩けい、「波打ち際の灯り」柿沼雅美、「妻を纏う」梶浦公平、「境界の円居」佐藤厚志、「渡辺家伝「真説 笠地蔵」」杉下俵石、「ひずみの蓄積」角直之、「仙台高尾の恋」平幸平、「鵜の尾岬まで」高玉旭、「玉菜餅姫」宝川陶子、「海辺の図書館」千葉直美、「新しい街」羽山慧、「さえずりの海」室津ゆすぐ(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

 

大賞と河北新報社賞は、3月18日(水)の河北新報第2朝刊に、仙台市長賞と東北学院大学賞は、『震災学』(3月31日発売予定)に、大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩 vol.105』(4月3日発売号)に掲載されます。さらに大賞は『小説すばる』(4月17日発売号/予定)に掲載されます。

 

 

大賞 「境界の円居(まどい)」 

佐藤厚志(38歳・仙台市在住)

 

<略歴>

1982年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科卒。2017年新潮新人賞でデビュー。ジュンク堂書店仙台TR店勤務

 

<選考理由> 選考委員 柳美里(作家・劇作家)

 

 佐藤厚志の「境界の円居(まどい)」は、東日本大震災から9年の歳月を経なければ生まれることはなかった小説である。2011年3月11日14時46分18秒以前に存在した幸福な過去のうちに希望のイメージを結ぼうとする「被災地」は多いだろう。けれども、深い絶望の淵に立っている「被災者」は、その希望が未来として現れることはないということを知っている。過去の懐かしい場所や、忘れ難い出来事や、愛しい人を求める飢えとも言える欠乏感は、いかなる未来によっても充たされることはないからである。「境界の円居」には、希望が見えない中で、どうやって生きていけばいいのか?という問いに対する答えは書かれていない。しかし、風が吹く。その風は、希望を求め、生きることを問わずにはいられない自分という存在に引き合わせてくれる。「境界の円居」は、震災から9年という時を映す水鏡のような小説である。

 

 

<受賞の言葉>

 

 仙台短編文学賞には震災に材を取った作品が多く寄せられる。そう聞いて災害と隣り合わせのこの国で、言葉にできないものをどうにか掴もうともがく人たちの姿が見える気がした。宮城を書くことは畢竟震災を書くことへ繋がるし、たとえ直接的に描かずとも、震災はどういう形であれ作品にひびを入れたり影を落としたりするはずだ。過去と現在が地続きであるように、当然我々の日常と地続きに震災がある。

 

 

仙台市長賞 「鵜の尾岬まで」  
高玉旭(59歳・福島県在住)

 

 

<略歴>

1960 年、福島県生まれ。弘前大学人文学部卒。元福島県職員

 

<選考理由> 仙台市長 郡 和子

 

 かつて福島県相馬市の磯部に住んでいた老齢の女性が、津波の記録をまとめる活動をしている高校生に、自らの半生と家族の歴史を語る作品。

 漁師町である磯部に嫁いできた自分の身の上話、かつての漁師たちの暮らしぶり、夫・息子・孫の三世代にわたる生き様と葛藤、そして津波による息子との別離……長い時間軸で構成される物語と鵜の尾岬の美しい風景は、「方言によるひとり語り」という形式によって、冗長に陥ることなく、読み手の心に自然に届けられる。震災で命を落とした死者と遺された人々一人ひとりに、それぞれの歴史があるということを改めて思い起こさせてくれる作品である。

 

<受賞のことば>

 

 昨年からある趣味の集まりを通して、近所にある双葉郡の災害復興住宅の人たちとお付き合いをしているのですが、意識してなのかどうか、震災のことについては誰もなにも語ろうとしません。その沈黙にどんな意味があるのか、どれほどの思いがつまっているのか、そんなことを考えながら物語を紡ぎました。舞台は私の故郷、福島県相馬市磯部地区。津波でいくつかの集落が壊滅し、私の友人や知人も含め、251人が亡くなった場所です。

 

 

 

 

河北新報社賞 「波打ち際の灯り」 

柿沼雅美(34歳・東京都在住)

 

<略歴>

1985年、東京都生まれ。清泉女子大学文学部卒。大学職員を経て、作詞家として活動中

 

 

<選考理由> 河北新報社編集局長 今野俊宏

 

 温かくも切ないミステリーファンタジーだ。何のつながりもない女子高校生と男子大学生との2人に、同じ死者の声が聞こえる。声の主は震災で犠牲になった老若男女という設定が興味深く、物語の破たんもない。

   軽妙な会話がリズムを生み出している。被災地の浜を2人が訪ねるささやかな冒険。ラストシーンの波の音、そして若い2人の純粋な思いがさわやかな余韻を伴って胸に迫る。書き手の強い願いでもあるのだろう。

 

 

<受賞のことば>

 

 このたびは大好きな柳美里さんに読んでいただけたこと、日々多くの出来事と向き合っている河北新報様の賞をいただけたこと、大変嬉しく思います。

 震災で価値観は大きく変わりました。今この時も未知なる世界情勢を前に、あの時のように小説や音楽は無力なのではと感じています。それでも、経過してしまう時間や場所、人々の感情を結ぶリボンのような役割になるのではないか。人は、何もできなくても寄り添うことはできる、そんな作品になっていたらいいなと思います。

 最後に選考委員の皆様に感謝申し上げます、ありがとうございました。

 

 

 

 

プレスアート賞 「妻を纏(まと)う」 

梶浦公平(70歳・青森県在住)

 

<略歴>

1949年、青森県生まれ。中央大学文学部卒。特別支援学校の教員、養護学校の校長を経て、退職後、青森ペンクラブ会長

 

 

<選考理由> プレスアート Kappo編集長 梅津文代

 

 ある日突然、妻を失った初老の男性。小さな諍いから二度と会えなくなった後悔を胸に、妻を偲ぶ旅が始まった。贖罪と哀悼と供養を込めた旅先での行為は物悲しく、どこか滑稽だ。一見突飛に思える彼の行動が腑に落ちるのは、震災経験者が今なお抱える喪失感にも重なるからだろう。不意の別離に戸惑ったままの心と体を納得させ、昇華させるための道行き。一人でありながら常に妻の気配を感じる非日常の時間を、淡々と丁寧に描いている。

 

<受賞のことば>

 

 古希を迎え、やがて後期高齢者という好きでない語感のレッテルを貼られる私。その私が賞をいただける事になった。これから先の抱負を持ち合わせていない身なので、驚くばかりです。ただ好きなジョギングと一緒で、ちょっとの苦痛を味わいながらゆるりとした時間の中で書き続けていくのだろうなと思うばかりです。

 『あらたまの 汽笛ならして 文学賞』

 新年会の酒の席、仲間との句遊びでできた戯言がつい口からこぼれます。

 

 

 

 

東北学院大学賞 「冷たい朝が来るまえに」 

水津藤乃(26歳・東京都在住)

 

<略歴> 

1993年、岩手県生まれ。一橋大学社会学研究科在学中

 

 

<選考理由> 東北学院大学長 大西晴樹

 

 祖父の危篤を聞き、久しぶりに地元に帰った主人公が周囲の変化を目の当たりにしつつ、主人公自身が知らず知らずのうちに変わっていく姿を描いた物語。著者自身の経験が描かれたものかと思ってしまうほどの作品であるが、主人公の変容過程をテンポよく読み進めさせる技術は秀逸である。これからの作品に大きな期待を抱かせる作品である。

 

 

<受賞の言葉>

 

 修論を終えた安堵から昼まで眠っていた日に、受賞のお報せを頂きました。電話で温かいお言葉をかけてもらえて夢心地でした。同賞を知ったのは、昨年岩手に帰省した時のことです。修論の気分転換にハートフルな話を書こうとしたのに、ちょっと違うテイストになってしまいました。やっぱり、家族を無条件に良いものとして扱うことはできなかった……。同賞は、そんな私の作品を拾ってくれた懐の深い文学賞です。拙い文章でしたが、それでも評価してくださった選考委員の皆さま、関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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