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第7回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2024年3月9日)

 

この度は第7回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。

 

全応募作品382編の中から、最終候補として「The Apple Of My Eye」鮎川知央、「マイ・カー」小田島比呂、「声の場所」郭 基煥、「がんがん鳴らし」工藤 等、「かわいすぎる」Christian Damerow、「オーバーザロード」谷原 悠、「川町」千葉雅代、「錦衣」野里征彦、「もーちゃんは、どこ?」春名美咲、「曙光」平橋 昴、「S市の秘密」水戸洋子、「ポリエステル伝導」湯谷良平(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。

 

大賞と河北新報社賞は、3月17日(日)の河北新報第2朝刊に、仙台市長賞と東北学院大学賞は『被災学』(3月30日発売)に、大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩 vol.129』(4月5日発売号)に掲載されます。

 

 

大賞 

「川町」 千葉雅代(30歳・仙台市在住)

 

<略歴>

1993年、宮城県仙台市生まれ。東北生活文化大学家政学部卒。事務職。

 

<選考理由> 選考委員・伊坂幸太郎

 頭の中をひたすら出力しているような作品でありながらも、それほど独りよがりになっておらず、「読む喜び」もあり、絶妙なバランスで成り立っている。「見えるもの」「想像したもの」「思い出したこと」がまざりあう、この作品自体が勢いよく流れていく川と言ってもいい。読み進めていくと、その「街への愛憎」の濁流の中にストーリーめいた筋がうっすらと見えてくるところもとても心地良くて、魅力的だった。

 

<受賞の言葉>

 仙台に生まれ仙台育ちの私が仙台の名を冠した「 仙台短編文学賞」を頂けるなんてこれ以上嬉しいことはありません。幼少時から図書館に通い詰めた本好きの私が、本が大好きな素敵な人たちが創設したこの賞を頂けることはもう一つの奇跡です。作家になりたい。叶わない夢かもしれない。ちっぽけな私が抱く果てしない野望をこれからも追いかけて、頭の中に詰まった物語の弾倉を全部ぶっ放して書いて応募して挑み続けたい。読んでくれた全ての方へ。ありがとうございます。奇跡もあるよ、せんだいせんだい。

 

仙台市長賞 

「ポリエステル伝導」 湯谷良平(24歳・埼玉県在住)

<略歴>

1999年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部卒。在学中「日大文芸賞」受賞。

 

<選考理由> 仙台市長 郡 和子

 「わたし」は、地域の駅伝大会に参加し、アンカー走者で現在不登校中の中学生「コンくん」に襷を繋ごうとするが、コンくんは走ることを拒否し、逃げだしていた。コンくんを探しながら、わたしは、震災時、両親と共に祖母を探したこと、その後、自分も不登校になったことを思い返す。突飛な設定ながらも、独特なリズム感を持つ文体が、ユニークな味わいを生んでいる。不登校の理由はそれぞれだが、人との関りの中で、生きにくさを感じている人たちへのまなざしがあたたかい。生きていくことへのエールが込められた作品。

 

<受賞の言葉>

 旅先で仙台のひとびとの声々を総身に受けたからなのか、不意にそれまでは当事者性の希薄さから書くことを避けていたテーマと、自分なりに正対してみようと思ったのでした。復興のすすむ被災地に敷設されたアスファルトの下で、薄れず残る十数年前の叫喚を掘りおこす膂力は私にはありません。しかしあの震災を、当時「外側」に存在していた自分だからこそ表現できることもあると思い、信じて書き上げました。大変光栄に感じております、この度は本当にありがとうございました。

 

 

河北新報社賞 

「声の場所」 郭 基煥(56歳・仙台市在住)

<略歴>

1967年、愛知県生まれ。東北学院大学国際学部教授。名古屋大学博士(学術)。著書に『差別と抵抗の現象学』(2006年/新泉社)、『災害と外国人犯罪流言』(2023年/松籟社)がある。

 

<選考理由> 河北新報社編集局長 安野賢吾

 関東大震災で行方不明になった仙台の朝鮮人留学生がモデル。家族が朝鮮から捜索に来たことを報じる当時の河北新報の記事に着想を得たという。朝鮮人虐殺をテーマにした、ずしりと重い作品だ。

 流言飛語がいかに多くの命を平然と奪ったか。新聞がデマ拡散に関わったことを含め、100年前の罪の重さに対する再認識を迫ってくる。登場人物の心理描写がしっかりしていて引き込まれる。「黄色い月が浮いている」や「声は凍えていた」といった表現も物語を豊かにしている。

<受賞の言葉>

 賞をいただき、大変うれしく思います。本作は、100年前起きた関東大震災でたまたま東京にいたため、流言飛語が生んだ災いに巻き込まれる仙台留学中の朝鮮人青年の物語です。朝鮮人虐殺事件の歴史をなかったことにしようとする動きが見られることに対し、驚きとやるせなさ、憤りに駆られて書きました。災害のさなかに人の手によって未来が絶たれた人の声をなかったことにしてはならない…。受賞を経て、執筆時の思いが一層強くなっています。読まれた方がどのような感想を持つのか楽しみです。

 

 プレスアート賞 

「S市の秘密」 水戸洋子(66歳・東京都在住)

<略歴>

1957年、宮城県仙台市生まれ。宮城一女高卒。山形大学人文学部中退。2010年「第18回DHC翻訳新人賞」佳作受賞。共訳書に『ドリームワーク』『平安への道』(バベルプレス)がある。

<選考理由>プレスアート Kappo前編集長 梅津文代

 舞台は2011年の東日本大震災から数十年後、再び大震災が起こった近未来。S市にまつわる噂が次々と紹介され、本作自体が「S市の秘密」であるという入れ子のような作品です。荒地の一軒家や謎の鉄塔、題名以外の文字が消えた本、死を待つ人ばかりのホテル…。不可思議と不穏さが混ざり合うディストピアと、「Y山の遊園地」など実在の場所を想起させる設定が独特の世界観を創出。浮遊感のある読み味はほかにない魅力でした。

<受賞の言葉>

 再びの大震災に見舞われたS市という設定は、不謹慎だったかもしれません。けれども、その設定がなければ、この作品は書けなかったと思います。「原稿用紙3枚分を散文詩風に」と様式を定め、浮かんでくるイメージを書き留めました。行き過ぎた部分が多いものの、修正せずに提出しました。若い頃から幻想小説を書くことが夢だったので、詩とも小説ともつかない作品が賞をいただいたことに、驚きと喜びを感じています。どうもありがとうございました。

※以下、学生対象

東北学院大学賞

「擬態」 浅井楓(22歳・仙台市在住)

<略歴> 

2001年、山形県生まれ。東北学院大学工学部環境建設工学科4年

 

<選考理由> 東北学院大学長 大西晴樹

 共に自分の性に疑問を抱く葵と奈央という「男女」の大学生が出会い、それまで内に秘めていたものを打ち明け、分かち合っていく過程を、「擬態」というタイトルに繋げて表現している。ハロウィンとミスコンという題材とともに大学の日常生活が生き生きと描写されながら、その中で抱え続けていた二人の葛藤が確かに伝わってくる。現代的な問いに対し、抽象的な理論ではなく、具体的で分かりやすい言葉で真っ直ぐに向き合っている物語。二人の間で描かれる連帯の可能性を今後も深めていってほしい。

 

<受賞の言葉>

 私の周りにも気づいていないだけで、葵と奈央のような人がいるのかもしれない、そんな想像を膨らませながら物語を紡ぎました。尊敬する河野裕先生の比喩表現に強い憧れを抱き、自分の表現力を知るために書き始めた作品です。美しい文章を知っているからこそ、己の未熟さを痛感し、難しいテーマも相まって、非常に悩みながらの執筆でした。小説を投稿すること自体初めてでしたが、この作品に良さを見出し評価して頂き大変嬉しく思います。選考委員及び関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

​​※年齢はすべて2024年3月9日時点のものです。

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