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第7回仙台短編文学賞 選考委員 伊坂幸太郎さん 講評

講評

第7回選考委員 伊坂幸太郎

 

 どの作品もクオリティが高くて驚きました。僕自身が、「枠からはみ出したもの」を好むため、「整ったもの」は評価が低くなってしまったところがあります。ほかの方が選考をすれば別の作品が大賞になっていたかもしれません。最終的には、『川町』『S市の秘密』『かわいすぎる』の三作のどの作品を大賞にするかで悩みました。

 『川町』は改行なしで思いが流れていく川のような作品でしたが、その流れに、「式神」や「仙台市バス色」といった言葉がぴかぴか光るようにも感じられるのが新鮮で、終わり方も想像力が刺激され、興奮しました。

 『S市の秘密』は文章、イマジネーション、構築度、どれも素晴らしく、不穏さや皮肉、不謹慎さが滲む設定も好みで、「プロの作家ではないか。ファンがついているのではないか」と感じるほどでした。大賞は一作にしなくてはならず、より新鮮さを覚えた『川町』を選びましたが、この作品もとても好きです。

 『かわいすぎる』不穏な気配と、どこかのんびりとした雰囲気が一緒になっており、これまであまり読んだことのない味わいの作品でした。「小説のセンス」「作家的可能性」という意味では一番だと思いましたが、唯一無二の味わいが、「外国語で書かれたものを別の方が翻訳する」過程で生まれたぎこちなさによるものなのか、完成品なのかどうかが読み取れず、大賞に選ぶ踏ん切りがつきませんでした。ただ、読み終えた今も心に残っています。

 簡単になってしまいますが、以下、ほかの作品についての感想を書かせてもらいます。『がんがん鳴らし』『錦衣』はしっかりした文章で描かれた、心に迫るものがある短編でしたし、『マイ・カー』『曙光』『オーバーザロード』は気持ちの良い風を感じる、魅力ある作品でした。完成度が高かったのですが、もう少し逸脱した部分を望みたくなりました。

 『声の場所』はこういった題材に向き合う姿勢に感服させられますが、「会津の血が騒ぐんですか」と茶化されるシーンのような小説的な場面、「記録」や「情報」からは簡単に想像できない場面をもっと読みたかった気がしました。『The Apple~』テンポが良く、先を読ませる力があるものの、想像の余地がもう少しあったほうが心に残ったかもしれません。

 『もーちゃん~』「もーちゃん」の正体が、「分かるような分からないもの」であることがとても良かったです。「AI」は現実の世界で進行形で話題になっているものだけに、フィクションの世界では「むしろ古い」という印象を受けてしまいます。より奔放な、想像力を使ったアイディアがあれば最高でした。

 『ポリエステル伝導』文章がとても良く、読んでいるこちらの気持ちが浮き立つようなリズムを備え、派手さはないのに読み応えがあり、素晴らしかったです。欠点がないのが欠点と言いますか、「現代純文学」として優等生的なので、「代わりがない」魅力がもっと欲しいという、欲張りな思いを抱きました。

 

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