第9回「仙台短編文学賞」受賞者決定のお知らせ(2026年3月7日)
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この度は第9回仙台短編文学賞にご応募いただきありがとうございました。
全応募作品336編の中から最終候補として、「風の街に届けて」(大浦太輔)、「朱禍」(木南木一)、「らずもねえ」(坂野 杖)、「旅立ち」(渋谷史恵)、「夏果てに言葉は二つ響き合う」(自由一花)、「雪月花」(髙橋 ビスコ)、「息をする夜半」(月越瑠璃)、「やなぎはら分校入門」(土生昭文)、「ホワイトリバー」(はなさか たみお)、「ランジェリーショップあたみ」(三倉くら)、「芝生の上の小鳥」(峰村成)(著者50音順、敬称略)を選び、選考の結果、下記の通り、大賞ならびに各賞を決定いたしました。
大賞と河北新報社賞は、3月29日(日)の河北新報第2朝刊に、仙台市長賞と東北学院大学賞は、『被災学』(この夏刊行予定)に掲載、大賞とプレスアート賞は、『Kappo 仙台闊歩 vol.142』(2026年4月3日発売)に掲載されます。
大賞「息をする夜半(よわ)」
月越瑠璃(つきこしるり)(32歳・仙台市在住)
<略歴>
1993年、仙台市生まれ。国公立大学を卒業後、医療職として主に精神障害・児童福祉分野に従事。一児の母。
<選考理由> 選考委員・木村紅美
東京の認知症病棟で働くうち、人間性を削られる目に遭い、仙台へ帰郷すると、子どもの保育園が決まらなくて悩む。行き詰った状況で、週に一回、ALS患者の夜間見守りを始める主人公にとって、看護とはお金を超え自身を支えられる仕事なのだろう。夜が深まるにつれ、瞬きでコミュニケーションを取るしかできない患者と呼吸を助ける主人公の内面は響きあってゆく。言葉なしで心の通いあう瞬間を作者は掬い取る。こんな表現は小説にしかできない。
<受賞の言葉>
生まれ育った「仙台」の名を冠する文学賞で、大賞をいただけたことを大変嬉しく思います。きっかけをいただき、今回初めて東北・仙台を題材に小説を書きました。病気も地域も、近くにあるからこそ難しいと感じます。フィクションであっても大切にしたい思いは変わらず、何度も何度も言葉を選び直しました。執筆に至った思いを大切に、皆さまへの感謝を忘れず、今後も精進してまいります。
仙台市長賞「雪月花」
髙橋 ビスコ(62歳・盛岡市在住)
<略歴>
1963年、岩手県生まれ。新潟大学卒。高校教諭。もりげき戯曲賞、盛岡市民演劇賞大賞、佐々木喜善賞奨励賞など受賞多数。著書に『しみじみ地蔵の道案内』(求龍堂)がある。
<選考理由> 仙台市長 郡 和子
「雪」「月」「花」にちなむ和歌を枕に展開する三つの物語。作中では、眼前で月が割れ、妖怪たちが乗るバスとなって三百年ぶりに自分を迎えに来たり(「月」)、花見客の中に何十年も前に亡くなった姉を見つけて語らったりするなど(「花」)、不思議な出来事が描かれる。淡々としたなかにユーモアを交えた一人称の独白によって、読者は日常と異界、生者と死者の境界のあわいに引き込まれる。読み終わった後、静かに余韻の残る作品である。
<受賞の言葉>
こんな齢まで続けてきた甲斐がありました。感謝申し上げます。今回の受賞を盾にして、少しでも白い眼を防いでいけたらと思っています。小説は一人でも出来る素敵な遊びです。いろんな遊びがありますが、ひとり遊びぞ我はまされる(良寛)。一人でいても頭の中だけではなくお化けが遊びに来てくれるので退屈はしません。でも時々一緒に遊んでいただけたら最高に幸せです。ああ面白かったと言って死にたい。よろしくお願いいたします。
河北新報社賞 「朱禍(しゅか)」
木南木一(こなんきいち)(34歳・福島県伊達市在住)
<略歴>
1991年、埼玉県生まれ。新潟大学卒。地方公務員。
<選考理由> 河北新報社取締役編集局長 安野賢吾
福島県会津地方の「赤べこ」。この郷土玩具を手にした「僕」がなぜか引き付けられ、同じリズムで首を振るようになり、ついには同化して赤べこそのものになってしまう。奇妙なストーリーが一人称で淡々と、まるで当然のように語られる。浮かぶのは都会の生きづらさ、孤独感、しがらみからの解放。雪深い東北の地で受け継がれてきた民具の揺れと同調してみた時、自身にどんな変化が起こるのか、想像をかき立てられる作品でもある。
<受賞の言葉>
赤べこは、ただ首を振るだけなのに目が離せません。肯定にも否定にも見える揺れが、いつのまにか呼吸のリズムに寄り添い、こちらの心まで同調させてしまう。会津の店先で手に取った瞬間の、素朴なのに抗えない重さと動きを忘れられません。その引力を、小さな土産が日常へ入り込み境界を揺らす物語として形にしたくて書きました。読者の首もつられて揺れ、福島へ会いに行きたくなる一篇になれば幸いです。ありがとうございました。
プレスアート賞 「ホワイトリバー」
はなさかたみお(48歳・京都府在住)
<略歴>
1977年、福島県泉崎村生まれ。同志社大学卒。京都で販売業、編集業、飲食業などを経験。
<選考理由>プレスアート Kappo前編集長 梅津文代
父親の三回忌を終えた中年の兄弟が、近所のラーメン店で食事をとる。ひとしきり白河ラーメンの良さを話した後、二人は神社を探してドライブへ。話題は震災直後の風景へと移り、福島の一次産業や野蒜にいた親戚のことが語られる。テンポの良い会話の中に実感のこもった描写がちりばめられ、不思議なエピソードも違和感なく溶け込んでいる。失われたものを描いていながら読後感は軽やかで、15年の歳月があってこその作品だと思わされた。
<受賞の言葉>
地元を離れて感じたことの一つがラーメンの違いである。まず上にのる具材が異なり、スープや麺も違う。オールドスクールな白河ラーメンが、よそでは珍しい存在であることが衝撃だった。そんなわけで、帰省してラーメンを食べるとアイデンティティの確認になる。“白河以北一山百文”という言葉があるが、東北には世界的/歴史的価値のあるものがまだまだ潜んでいる。老後は東北をぶらぶらして無名の宝石を発掘する人生を送りたい。
※以下、学生対象
東北学院大学賞「おそい旅路」
志賀 久(24歳・仙台市在住)
<略歴>
2001年、秋田県生まれ。東北医科薬科大学医学部医学科在学。
<選考理由> 東北学院大学長 大西晴樹
本作は、効率や速度が至上とされる現代において、あえて『遅い旅路』を選ぶことの豊かさを、仙台から秋田へ向かう夜行バスの中で瑞々しく描き出した秀作である。震災の記憶や車中での一期一会の交流を経て、新月を意味する名に込められた「ゆっくり満ちていけばいい」という祖父の慈愛へと辿り着く構成が巧みだ。焦燥の中から光明を見出そうとする再生の物語を、独自の抒情性で見事に描ききった。現役大学生による内省的で深みのある筆致を高く評価するとともに、今後の歩みを一人の読者として楽しみにしている。
<受賞の言葉>
人と人が交わるとき、一筋縄ではいかないものです。祖父と私の関係もご多分に漏れませんが、同時に多くのことを彼から学びました。本を読むことへの肯定的な眼差しは彼から学んだものの中でひときわささやかで、吹けば飛んでしまいそうなものですが、私の心に深く根を下ろしています。その他の私のことを好きな人も嫌いな人も別に何とも思ってない人も、出会ってくれたすべての人々に感謝したいです。皆さんのおかげで書けました。
※年齢はすべて2026年3月7日時点のものです。

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